ザ・トゥルース・オブ・アス(涙のくちづけ)(紙ジャケット仕様) |
繊細な歌声、自分自身に語りかけるような内省的な歌詞、3分から5分の間に、しっかりとメロ、サビと構成をまとめたコンパクトかつ濃密な楽曲。 これほど完成度が高く、我々日本人の心の琴線に否が応でも触れまくるこのアルバムが、初CD化というのは驚きです。 アーティスト本人は楽曲作りにかなり苦労されたようですが、その苦労がこのクオリティの高さに十二分に反映しています。 ドラマに何度か使われたというキラーチューン1は言うまでもなく極上ですが、僕の個人的なおすすめは4曲目。 シンコペーションのリズムにのせて、「Everybody!」と叫ぶデヴィッドと子供のコーラスがとても微笑ましくて、とても心が暖まります。 子供も踊りたくなるような曲です。 これ一曲だけのためでも買いです! |
ゴールデン・ベスト |
歌:柴田恭兵、作詞:田中康夫、作曲:近田春夫。いまとなっては100パー考えられない組み合わせである。三者三様の汚点、消し去りたい過去かもしれない。
小説同様、歌詞に註釈が付いてる。レイニー・デイ、グルーミー、ハップハート、メディタレイニアン・バー、ファラ・ガール、アフェアー、アーバン・デイ、ステディ...もういいってか?小説でさえ過剰に思えた康夫ちゃんの世界観が2'46"に余すところなく投入されていて、大爆笑である。 小説が1981年1月、このイメージソングが4月、映画が5月だから、田中康夫はあっという間に時代の寵児になった訳だ。売れ始めたばかりの新人作家で、イメージソングを作るってだけで有頂天だっただろう。あと半年経ってたら、田中康夫が柴田恭兵の宝焼酎「純」のコマソンにGO出し、しているはずがない。 柴田恭兵は1979年のTBSドラマ「赤い嵐」で思いっきりメジャーになるとともに、思いっきりダサイ存在にもなっていた。“何やってんだい、しのぶちゃん”とミュージカルノリで能勢慶子に絡むアレである。柴田恭兵は、それはそれで味もありファンもついてた訳だが、「なんクリ」は柴田恭兵のイメージとオーバーラップする部分はほとんどなく、ファンにとっても???だったのではないか。 近田春夫はこの年、ぼんちで当てていた。とにかく何でもこなしておこう、という時期だったのではないか。全体としては当時の近田テイストの曲だし、後年CMで才能を発揮しているように、サビは非常に耳に残るものになっている。でも当然詞先だろうこの詞と、柴田恭兵のキャラ、歌手としての個性...手に負えるシロモノではない。 まあ20年後の柴田恭兵は予想ができたとしても、近田春夫がテクノ・トランスの人になってたり、ましてや康夫ちゃんが長野県知事になってるなんて本人すら予測もつかなかったはずだ。思えば遠くへ来たもんである。 |
なんとなく、クリスタル (新潮文庫) |
この本がでた1981年は、そういえば「おれたちひょうきん族」が始まった年でもある。いずれも、旧来の(お笑い・文学)秩序に対する違和感、距離感の表明という点で、「革新的」な役割を果たしたんだろう。本書はそういういみで、さまざまなもの、に対して巧みに等しく距離感をとろうとしているところ(そこで脚註が力を発揮している)が面白いし、その計算高さはさすがだとおもう。話がずれすが、本文―脚註という関係は、本文=あくまで万人に、脚註=わかる人はわかれば(笑えば)いい、という二重底の物語を構成するのではないか。たとえば「ケイゾク」「トリック」のようなドラマでは、そうした脚註=つっこみの部分がどんどん肥大化してきている。
「なんクリ」は、「ひょうきん」がそうであるように、(特に映像系だとおもうが)ナラティブの形式をある意味革新したとおもう。相対主義が革新的であり、うとましい全共闘(あるいは転向保守)にたいする抵抗帯として機能した当時においては。しかしいまやこうしたものは、「ひょうきん」がそうであるように支配的なものになってしまった。つまり抵抗ではなく抑圧に転化したのかもしれない。だから「今」の感覚で「なんクリ」に耽溺するのは、マズい。 |
ムーンウォーク |
この本はマイケル・ジャクソンの初の自伝となっています。幼少期からジャクソン5、ジャクソンズ、そしてソロとしてアルバム『BAD』までの生涯を彼自身の言葉で振り返ることが出来ます。アルバム作りに対する意気込み、情熱が伝わってきます。特に『Thriller』にかける思いは凄まじいものがありました。
完璧主義者ゆえの心の葛藤、幼い頃から有名だったことによる精神的プレッシャーやマスコミからの嫌がらせのような報道への憤り、家族のこと、友人のこと、モータウンへの反発など、30年程の人生の様々な局面での内面を語ってくれます。メディアの上では見えなかった真実が明らかになります。 マイケルの完璧志向はこの本を書く際にも発揮されています。自分の本当の気持ちを伝えようと、慎重に言葉を選んでいる気がします。田中康夫氏による翻訳もこなれていて、非常に読みやすいです。本の最後に記された言葉が印象的でした。以下にその言葉を引用します。 「人間は真実と接していたいと望んでいます。また、その真実を他の人に伝えたいとも思っています。たとえ絶望であっても、喜びであっても、自分が感じたり経験したことを生かすことが、その人生に意味をもたらし、他の人々に役立つことにもなるでしょう。 これこそは芸術の姿です。こうした啓蒙の瞬間にためにこそ、僕は生き続けているんです。」 |