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赤穂浪士〈下〉 (新潮文庫)
物語は、周知の結末に向けて徐々に流れを速め、クライマックスの討ち入りに向けて滔々と流れていきます。

その流れを導いていた内蔵助はほぼ流されることなく屹立し続けますが(あと天真爛漫な堀部安兵衛など)、肉親のしがらみや恋心に心ならずも囚われ、討ち入りから漏れてしまう浪士たち、巨大な流れに自らの心を見失い虚無に生きる架空の人々の姿は、「英雄」となった人たちの雄雄しさとは異なる哀切となって物語に深い陰翳を与えます。

また、吉良側について、褒賞も名誉も無い戦いに命を捨てる上杉側の武士たちの覚悟と哀しさ。
大石も含め、歴史群像の一人一人が、我々に身近な「人間」として語りかけてくるようです。

それにしても、討ち入りの場面、最大漏らさぬ、それでいて読む者を圧倒する描写、そしてラスト、堀田隼人の運命・・・見事の一言です。

 

赤穂浪士〈上〉 (新潮文庫)
「忠臣蔵」は日本人ならどなたもご存知の物語ですが、TVドラマ、映画でしか味わっていない方も多いのではないでしょうか。本書は、忠臣蔵を描いた小説の決定版であり、NHK大河ドラマの2作目の原作でもあります。東京オリンピックに向かう日本の高度成長時代、NHK大河ドラマは今とは比較にならないほど国民的娯楽でありました。原作は今や古典の趣もあり、なかなか手が出にくかったのですが、読み始めるとこれが物凄く面白く感激致しました。「忠臣蔵」はクライマックスの討ち入りが印象に強いのですが、そこに至る伏線が幾重にも重なりあい、期待感が高まってゆきます。赤穂の主君切腹、お取り潰しの沙汰が、市井の人々を刺激し同情と敵討ちやるべしの世論が盛り上がります。逆にそれが邪魔にもなるし、その世論を背景に大博打を企てる赤穂藩士たちの様子と吉良側に雇われた女盗賊、浪人、怪盗等とのせめぎあいが実にスリリング。かなりの分量ですが、読み出すと時間の経つのも忘れて読み進めてしまうほどでした。読書のお好きな方にはお勧めな名作時代劇です。

 

角兵衛獅子―鞍馬天狗傑作選〈1〉 (鞍馬天狗傑作選 1)
 NHKの鞍馬天狗にはがっかりしましたが、三十数年ぶりに原作を読んでみようと思うきっかけにはなりました。中学生の頃、やはり同じNHKで高橋英樹の鞍馬天狗を放送していました。そのころ発売されていた中央公論社の全集の第1巻(ハードカバーで480円)をお小遣いで買いました。もちろん第1巻は、この『角兵衛獅子』です。夢中で読んだおぼえがあります。元々『少年倶楽部』に連載(昭和3年)されていたものです。です、ます調の文章が懐かしく感じられました。「さっきの時雨は、今、東寺のあたりを降っているらしい」から始まる、とても丁寧で品のある文章は、昨今のアニメや映画を見なれている少年たちにはどのようにうけとられるのでしょうか。ここに描かれている勇気や志もふくめて、彼らにぜひ読んでほしいと思いました。面白いですよ。

 

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